お作品「脳出血から二度生還して」を拝読しました。
昔から「人生、一寸先は闇」といわれますが、何事もなく平和であった暮らしが、ある日突然、不測の事態に見舞われ、先の見通しきかなくなるというのは、珍しいことではありません。
金子様は、それまで順風満帆な公務員生活を送っていられたのが、43才の秋、突然脳出血におそわれ、左半身不随になられます。けれども、仕事人間と自ら称される金子様は、真剣にリハビリテーションにたちむかわれ、杖を使っての歩行ができるようになります。職場復帰ののち、金子様のリーダーシップによって、コンピューター導入も成功。職場の雰囲気と能率がうまく調和します。ところが9年後に二度目の出血。 病気に負けて人生を投げ出すか、限られた機能を最大限に生かしながら前進的に生きるか、そのいずれかで、人生の内容は大きく違ってきます。金子様の生き方は、まさに後者そのものです。しかしそれは生やさしいものではありません。 金子様は、上級公務員として数々の貢献を庁内でも、外に向かってもされていますが、そのような人は、得てして自己顕示欲があらわであり、自信過剰になりがちです。また、病気の後遺症を持つ人は、甘えがちなものですが、けれども金子様は、謙虚な目で自己をみつめ、環境や事象などにたえず客観的な視線をそそぎ、社会復帰をするにはどうすべきかを自ら探り、努力をされています。その結果が「脳出血から二度生還して」の良き結実となられたのだと思います。
実録である作品は、その間の事情が自分で分かっているだけに描写不足になりがちですが、お作品は実に具体的にして詳細、病状や復帰に至る過程が、あたかも読者の肉感にとどくかのように描かれています。現在後遺症で苦しむ人も、介護にあたっている家族も、多くの示唆と力をここから得るにちがいありません。後遺症に苦しむ人にとって何よりも大切なのは、社会復帰への意志、生きることへの肯定、だと思います。それが、金子様の実体験を通し、説得力をもって語られているのですから。
さらに、単なる体験談にとどまらず、現在、パソコンを使い同じ病気で苦しむ人への働きかけをされています。かつて金子様は、障害者としての公務員生活の中で、家族をはじめ、同僚たちから多くの愛情をうけられました。今それを、後遺症に苦しむ人々、その家族、にむけていられるのを読者はここで感じます。その作者の心の有りようがすばらしく、健常者よりも豊かな生を生きていられるのではないかと思ったことでした。
限定された条件の中で、人はいかに生きていくか、という、普遍的命題もさしだしていられ、「脳出血から二度生還して」は価値ある一冊になることは確かだと思います。 なお、少年時代を描かれた導入部は、後遺症とたたかいながら公務員の務めを果たす、一人の男性の生き様の伏線として、魅力的であることを申し添えたいと思います。
( ・・・ 出版社講評から引用 ・・・)
|