2001年

30年ぶりの大改修   12月16日 日曜日

娘たちが片づいて、2階の物置部屋になっていた娘が使っていた部屋の改修と

普段、主人が書斎兼寝室にしている部屋の床の張り替え工事をしようと

工務店に依頼していたところ第1段階として年内に主人の書斎の改修を行うことになった。

2度目の脳出血になってから1度模様替えをして

大きなスピーカーとレコードプレーヤー等のステレオ類を処分し、

代わりに介護ベッドを入れたことがあるが

今回は床を張り替えるため、総ての物を運び出すことになった。

何ごとも事前の準備や段取りが大切であるが、今回難儀なのは書物をダンボール

に詰めて運び出す作業である。腰に負担がかからないよう慎重に作業した。

夕方、大方の荷物が片づいてホッとしていると

「ヤレヤレ疲れたね〜お茶飲もう!」と主人。何もしなかった割には本当に疲れたらしい。

「え〜? それ私のセリフ!」 片づけて殺風景な部屋で

妙に静かにコーヒーを飲んだ。美味 しかった。

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帰ってくるまでは   10月22日 月曜日

夜になっても降り止まない雨音が 時々強くなる。

ピーポー、ピーポー 遠くの方で救急車のサイレンが聞こえる。

「何も連絡無いのか?まったく連絡くらいすればいいのに!」 主人も気にしているようだ。

「明日は夕方からの勤務だから職場の人と食事にでも行ったんじゃないの?」

「しかし、待つ身になると大変だな」

「そうよ!私はさんざん待ち続けたわよ午前様を。あの頃携帯電話無かったしね」

 

11時半過ぎに息子から「これから帰る」と電話 まもなくエンジン音とともに帰ってきた。

3匹の犬がいっせいに甘えた声で鳴きだした。

「残業だよ。腹減ったメシ」

あれほど心配していた主人は気持ちよさそうに寝息を立てている。

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月日は旅人    8月19日 日曜日

もう三十年も前から人が住まなくなり物置に使っていた古い家が取り壊さないと危なくなってきた。

屋根の瓦がずれて天井に何カ所もぽっかり穴があいている。

雨の日には雨漏りどころか直に降ってくる。

玄関のガラス戸は何時バリッ!と折れても不思議ではない程

弓なりに反り返り 引くことも押すことも出来ない。

私が生まれ、私の父も生まれたこの家は

百年以上我が家の出来事を見守り続けてきた。

父の出征記念や結婚記念の写真の背景になったり、

戦後直ぐのカスリーン台風で利根川が決壊し大洪水になった時には

渦巻く濁流から家族を守ってくれたのもこの家だ。

秋からの解体を前に、このところの暑さと戦いながら

毎週末の休みを利用して少しずつ荷物の片づけをしている。

子供の頃「曾祖父の代まで庄屋を務めたんだよ」と祖母からことある毎に聞かされきたが、

時代の流れのなかで当時の面影の残るものは屋号の入った鬼瓦と半分埋まってしまった構え堀くらいである。

息子の鯉のぼりはしっぽが泥で汚れてもう使えないし、ビニール袋に入った陣羽織、娘たちの雛人形、

私が結婚する前に使っていた編み物機械に足踏みミシンも出てきた。

手あぶり火鉢やちゃぶ台など、映画の小道具よろしく埃にまみれて雑然と置いてある。

それらを見ていると遠い日の思い出が浮かんでくる。

そんななかで、羊羹の入っていそうな桐箱を見つけそっと開けてみると

陸軍の色あせたゲートルと星の襟章が入っていた。

ゲートルの巻き具合は父の几帳面さを懐かしく思い出す。

処分するものと残すものを選り分けながら、私のこの家への想いは決して子供たちには解らないだろうな! と思った。

そして後々この家が存在した事すら忘れられていくに違いないと思うと寂しくなってきた。

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サクランボ    7月 1日 日曜日

サクランボが宅急便で送られてきた。

先日知人から「山形のサクランボ送りましたよ。」とメールが入っていたので楽しみにしていた。

赤く艶々した実はいかにも新鮮で宝石のように輝いている。

早速主人といただいた。

新鮮なサクランボの甘さが口の中いっぱいに広がった。

送り主のH婦人とは20年来の知り合いで、

主人が車椅子生活になってからは

何かと励ましのメールをいただいた

その暖かい思いやりに感謝している。

おっとりしたその様子からは想像できないが

若くしてご主人を亡くされ、老義父母と3人のお子さまを抱えご苦労された方だ。

「苦労した人ほど他人に優しくなれる」本当にそう思う。

今、お子さま方もそれぞれ新しい家庭を持って独立された由、ほっとされたと思う。

これからはご自分のための時間を持たれることを念じている。

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自覚と責任と親心 6月11日 月曜日
4月から就職した息子が車を買うと言う。

自分で働いて買うのだから当然自分の名義で登録することになる。

そこで、手続き上問題になったのが印鑑登録である。

 

今年成人式を迎えた息子に、自覚と責任を持たせるには格好の機会と思い

実印と銀行印をプレゼントすることにした。

早速印鑑屋に出向いて注文したが、お店で「印鑑は印相がとても大事」といろいろお話を伺った。

常々そういう事を気にする性質ではないので正直よくわからなかった。

しかし、実印は一生使うものなので、店主の勧める太めの象牙にした。

私の印鑑の2周り、主人の1周りは大きいその印鑑、店主に言わせれば

「子供が親を越える といって縁起がいいんです」

世の親たちはこの言葉に弱い。印鑑の大きさが少しくらい大きいからといって親より良い暮らしができる保証はない。

しかし、これからの人生を考えれば良かれと思うほうを選ぶのは親心として当然の事のように思われる。

「自覚と責任を持たせるよい機会」との最初の意気込みも単なる親ばかになりかねない。

子供を1人前にするためには、まず親が1人前にならなければと反省した。

 

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 卒業祝い 5 月 27日 日曜日

この3月末、長女が小学校4年、5年、6年と3年間教わった恩師が定年退職された。

先日、子供たちがお世話になったお礼と先生の無事卒業をお祝いして、

当時の保護者仲間が先生を囲む会をもった。

子供たちは今年30歳となり、結婚したり子供の親になっている者も多い。

 

卒業以来17年が経過しているが毎年毎年教え子を送り出していても、

このクラスの子供たちはなぜか鮮明に覚えていると言う。

子供たちが4年生の時に書いた「将来の夢」と言う作文を1人1人封筒に入れて返してくれた。

卒業時の約束の成人式のクラス会は諸々の事情で開けなかったが、

先生は子供たちが20歳になった時渡そうと大事に保管しておいたそうだ。

「さまざまの事思い出す桜かな」という芭蕉の句が浮かんで、

春には桜が満開になる小学校の様子が思い出され胸がいっぱいになった。

「30数年の教員生活の最後をこの学校の校長で終わることができて私も幸せでした」と

福島弁で訥々と語られ、その飾らない性格が皆に好かれるのだと感じた。

子供たちもそして私たちもこの先生に抱く親近感は特別である。

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母の日プレゼント 2001年 5月 13日 日曜

「使い勝手がよく重宝していたんだけどな〜」と未練げいうと

「新しいの買ったらいいじゃないか」と息子が言った。

そもそもベルトが切れた原因は、ルー・アイン・ベルの愛犬3匹を一度に車に乗せて予防注射に行ったことだ。

3匹は慣れない車に乗せられたので狭い車の中をうろうろしたり、

一斉に運転席や助手席に移動しょうとしたり「ダメ!アイン・・コラ!ルー・・ベル・・ ダメでしょ!!・・もう!」と

言ってる内に切れてしまったのだ。仕方なく、あり合わせのバックを使っていたら、この間息子が

「バックどんなのでも良いんだろう?俺が買ってやるよ。母の日プレゼントだよ。」

照れくさそうにボソリと言った。

「えっ!? どうも有り難う・・」

毎年娘から母の日にお花が届いているが

息子から母の日プレゼントを貰うのは、

幼稚園でのお母さんありがとうと書かれた似顔絵以来である。

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例年の楽しみ 2001年 5月 6日 日曜日

毎年4月末から5月にかけてのゴールデンウィークは待ち遠しい。

あれやこれやの用事を片づけたり親戚や知人が訪ねて来たり、田植えの準備や野菜の植え付けなど、

考えただけでもわくわくしてしまう。

 

最初の訪問者は二女で、お付き合いしている彼を伴ってやって来た。

二番目は叔母で、息子の休みに車に乗せて貰ってお墓参りにやって来た。

三番目は主人の姉夫婦で主人の無事退職を殊の外慶んでくれた。

最後は長女で旦那が出勤とかで一人で帰ってきた。

おばあちゃんは3日から6日まで外泊し、久しぶりに私の手料理を楽しんだ。

 

私は暇を見つけては、サツマイモの苗を植えたりジャガイモ畑の草むしりをしたり、

プランターの草花を植え替えたりとご機嫌な時間を過ごした。

 

田圃の管理をお願いしているおじさんはトラクターの音を響かせながら田植えの準備を始め

やがて頼りなさげな早苗を行儀よく植え付けていく。

溶けてしまいそうな早苗も夏の猛暑に耐え秋には逞しくなって黄金色の実を付ける。

 

社会人一年生の息子は、この長い休みを朝寝坊と愛車の手入れに費やした。

主人は休みに関係なくマイペースでパソコンと読書とテレビの将棋観戦等で過ごし、

一度だけ私が一緒に書店に出かけて気分転換を図った。

 

それぞれの楽しかったお休みはあっという間に終わってしまった。

 

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